全部夢だった
朝目覚めたとき、なぜだか泣いていた。
何か夢でも見ていたのか、それはどんな夢だったんだろうか。
寝ぼけ眼のまま、布団の上で寝返りをうったとき、何かを思い出しそうになった。
でも、それが何なのかは全くわからない。
空腹を感じたので、起き上がることにした。起き上がった瞬間、なぜだか言葉が出てきた。
「何が食べたいかな。」
誰かに向けたわけでもなく、飛び出す言葉。
朝ごはんを作ろうかとも思ったけど、窓の外へ目をやると、とてもいい天気だったので外へ出たくなった。
「今日は鴨川でモーニングしようか」
誰宛でもない言葉がまた発される。
財布だけ持って、上着を羽織って外へ出る。肌寒い季節になったものだ。
温かいコーヒーも飲みたくなる。
あんまり入ったことがなかったけど、ずっと行ってみたいと思っていた近所のパン屋さんへ行って、パンを見ていた。
お盆を手にとって、あれもこれもと選んでいたら、パンの山ができあがってしまった。
「分ける相手もいないのにね」
思わず呟いてしまった。
「パンは冷凍して保存ができるので、よかったら凍らしてあげてください。」
と、後ろから声がした。
店主さんらしき人の声。
「ありがとう。そうします。変なことを言ってしまって申し訳ない。」
「お気になさらず。もうお会計されますか?ちなみにコーヒーのテイクアウトもございます。」
「ここはコーヒーも出してるんですか?それは嬉しい話…そろそろお盆も限界ですし、お会計お願いします。」
「どうぞこちらへ。」
山積みになっていたパンたちが、1つ1つナイロン袋や紙袋に仕分けられて行く。
そして最後には1つの袋にまとまってきれいに収まった。
「コーヒーはどうされますか?」
「あ、じゃあホット1つ」
お金を支払って、渡されたレシートを何の気なしに眺めると、コーヒーが書かれていなかった。
「あの…コーヒーだけお会計出来てないみたいです。いくらですか?」
「パンをたくさん買っていただいたので、サービスです。気にしないでください。」
「え…いいんですか!?ありがとうございます。ラッキーだなあ。」
「今日一日がいい日になるともっといいですね。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
差し出されたコーヒーを持つと、ほんのり温かかった。なぜだかホッとした。
つづく。